こころの不調から社会復帰をするステップ
心の負担が強い場合、治療の一環として休職が必要になることがあります。
傷病手当の申請や会社への治療経過、休職期間を伝える診断書の提出のため月に2回以上通院を行います。
メンタル不調の治療は、体と心が疲れている時期は安静にして治療に集中します。その後、復職や社会復帰に向けて、心と体の「リハビリ」が必要になります。
「少し元気になった」「環境が変わった」という理由だけで復帰すると、再発のリスクが高まります。休職期間は、「自分の仕事の仕方や生き方を見直すチャンス」です。この時間をどのように活かすかで、その後の人生が大きく変わります。
社会に戻りたいという意思と、治療に向き合う気持ちを持ちながら、「リハビリ」を通じて業務スキルや認知変容を身につけることが、再発を防ぐ鍵となります。
休職が長期化するセルフチェック
- 朝起きる時間が遅くなった
- 復職への焦りで頭がぐるぐるする
- 仕事を考えると気分が悪くなり、他のことに時間を費やしてしまう
- 夕方以降に疲れて横になる
- 産業医面談や会社の復職要件など必要な情報が整理されていない
1つでも該当すると、復職にはまだまだ遠い可能性があります。
復職が難しい人セルフチェック
復職が難しくなりやすい人や復職しても再休職しやすい人もいます。復職は社会復帰への「リハビリ」と捉えられることがありますが、以下のような方々は「治療」から「リハビリ」への切り替えがうまくいかず、復職のタイミングを見失いがちです。
- 真面目
- 人間関係の摩擦が苦手
- 物事を一歩一歩着実に進めたい
- 標準的なことから外れることに不安が強い
- 言われたことを忠実におこないたい
休職中のお金・経済的支援
休職中は基本的に給与や賞与が支給されませんが、雇用保険に加入している場合、傷病休暇として傷病手当金制度を活用できます。また、精神科や心療内科の受診において、3割負担が1割負担になる自立支援医療制度もあり、長期休職でも治療を継続しやすくなります。
さらに、会社によっては病気休暇や欠勤扱いで基本給が支給される場合もあります。休職の開始時には人事部門に会社の制度を確認しましょう。
<傷病手当金とは>
傷病休暇の場合、主治医から診断書をもらい、それを会社に提出して休職が始まります。復職時も、主治医が業務の負担に耐えられるかを判断し、診断書で復職可否を職場に伝えます。
傷病手当金は病気や怪我で働けなくなった場合に受け取れる制度で、健康保険に加入している場合、休職4日目から受給が可能です。社会保険に加入していないと受け取れませんが、一定の条件を満たせば退職後でも受給できます。
傷病手当金は、労務不能の自己申告だけではなく、通院・治療の状況や主治医の意見を基に支給されるかが判断されます。支給期間は最大1年6カ月で、それを超えると同じ傷病名では支給されません。金額は標準保険月額の約2/3となります。
<自立支援とは>
自立支援医療制度は、うつ病や不安障害などの精神疾患にかかる治療費を公的機関が一部負担する制度です。市区町村や県が重症度や所得状況を基に負担額を決定します。
自己負担分の3割のうち、公的機関が2割、さらに別の公的機関が1割を負担するため、自己負担が0円になることもあります。この制度は精神疾患の治療に関連する医療費が対象です。
傷病手当金支給制度・自立支援医療制度のどちらも、当院で申し込み手続きを行えます。
復職・社会復帰達成された方のケース紹介
当院で治療をされた中で、復職された方のケースを5つご紹介致します。
▼①思考がまとまらず休職・4か月で復職
50代男性。IT企業勤務。初診時は中等度のうつ状態。
業務中に頭が働かず、作業効率が低下していたため産業医面談実施となりました。
考えが途中で止まってしまう(思考制止)、寝つきが悪い、全身のだるさ、しゃっくりが止まらない等の症状があったため、産業医より心療内科受診を勧められ、治療を開始しました。
rTMS(経頭蓋磁気刺激法)を実施することで脳疲労が回復し、要領を得ない受け答えや、いくつも質問することを繰り返すことが減っていきました。
仕事に対する認知を変える治療法(仕事に対する恐怖の除去、仕事との向き合い方、結果を出す仕事の仕方等)を行い、不安の強さから喋りすぎたり全く喋れなかったりしたことを自覚し、疑問解消のために適切な行動を取ることで不安を軽減できることを習得していきました。
復職直前にはリワークプログラムに参加し、生活習慣の確立と対人交流のリハビリを行いました。途中で発熱と頭痛を訴え数日欠席しましたが、闘病意欲を失わず、初診から4カ月後に復職されました。
▼②複数回の休職と復職を繰り返す
30代男性。事業所勤務。初診時は中等度のうつ状態。
過去にも過労により多くの人が倒れている部署に異動となり、自身も過重状態となり休職されました。妻と2人の子どもの4人暮らしでしたが、休職中の家事分担のことで妻との関係が悪くなり、復職後も関係不和が続き、仕事とプライベート両方のストレスから再休職することを繰り返していらっしゃいました。
当院には●回目の休職で来院されました。
まずはカウセリングで家族関係の修復を目指し、家族とのコミュニケーションを振り返り、行動を変えることで関係を修復し、次第に家族一丸となって復職に取り組める土台を整えていくことが出来ました。
次に、復職しても仕事で倒れないように、仕事の仕方、心構えのカウンセリングを行いました。
上司との位置関係、仕事の仕方をカウンセリングで学び、組織に対するポジショニングがずれていたことに気づかれ、再発しないメンタリティを学んでいかれました。
以前、他院のリワークプログラムに参加されていましたが、実践と定着ができていない(心理教育で学んだが、実際の自分に当てはめ理解し行動変容する事が出来ずにいたと言われておりました。
当院では復職の為にステップを踏んで身体心身を整え、再発しない思考を支援してきました。初診から8カ月後に復職され、今も休職することなく復職されています。
▼③会議中に頭が真っ白になり休職
30代男性。営業職。初診時は軽度のうつ状態。
第二新卒として転職後半年した頃、営業会議で責められるような発言を受けた際に頭が真っ白になり、考えたり発言したりすることができなくなってしまいました。
心配した上司が心療内科受診を勧め、当院受診し治療開始となりました。
会議中の症状は自律神経系のシャットダウン(危機に遭遇した際、自分を守るために凍りついたり、フリーズしてしまうこと)が起きたものと推察されたため、自律神経を整える生活習慣の指導から開始しました。
並行して、そのようなシャットダウンが起きた根底に親との関係や前職の経験がトラウマ記憶になっていると思われ、タッピングセラピーでネガティブな感情から解放していきました。タッピングセラピー直後は感情が動きたいへん消耗されていましたが、数回の実施で気持ちが安定するようになっていきました。
初診から2カ月後に復職可能な状態になりました。元々独立することを希望されていましたので、会社を退職され、独立に向けての行動されはじめました。行動も活性化されてきた時点治療終了となりました。
▼④上司との関係性で悩み、休職
30代男性。運送業。初診時は中等度のうつ状態。
1年前に転職し、先輩社員が指導についたものの、別室での長時間に及ぶ叱責、きつい口調で責め立てられる、「もの覚えが悪い」「バカ」といった悪態をつかれることが続いたため、中途覚醒、その後の入眠困難等の睡眠障害を引き起こしました。
休職せずに済むのならしたくないと話されていましたが、業務に対して自信を喪失しており、日中や休日もぼーっとし仕事にならない様子が伺われたため、休職となりました。待合室でも張り詰めた様子で緊張が強く、スタッフの案内もあまり頭に入っていないような状態でした。
3回の睡眠衛生指導を行い、睡眠導入剤を服用しなくても眠れる状態にまで回復しました。その後、認知行動療法の一つである行動活性化療法を行い、不安や焦りのときでもメタ認知できるように行動変容に取り組んでいきました。仕事での表情や態度、どのような話題から話すと伝わりやすいかなどコミュニケーションなどビジネス上のスキルupを重ねていきました。
その後、リワークプログラムに参加。通勤のための生活習慣の確立、及び集団の中で自己表現をするアサーション等を学び徐々に自分らしさを取り戻していかれ、初診後7カ月で治療終了されました。
▼⑤異動や退職者で業務量負荷による休職
20代女性。福祉関係。初診時は中等度のうつ状態。
新卒で入社しましたが、スタッフの異動が立て続けに続き、上司と2人での店舗運営を余儀なくされました。次第に眠れない日や朝起きられない日が出現し、遅刻をするなど業務に支障が出始めました。
配属1年目ということもあり、「うまくできていないのではないか」という漠然とした不安も起こるようになりました。
カウンセリングでは傾聴を行い気分の安定を図っていましたが、上司が先に退職することが決まり、ご本人も休職をすることになりました。休職中は過眠傾向が見られたため睡眠衛生指導を行いました。その結果日中の活動を計画的に行うことでメリハリのある休職生活を送ることができるようになりました。
その一方で自分の人生を見直し、転職活動を開始されました。休職後3カ月で転職先を見つけ、生活リズムなど乱れていなかったためにスムーズに再就職することができました。転職後は、仕事について自分を責めたり「こうあらねば」と考えすぎたりしないよう、仕事の仕方、モノの考え方、成果の出し方などのビジネスメンタルトレーニングを続けられて、勤務をされています。
家族・周囲の人の支え方、関わり方
うつなどのメンタル疾患を持つ周りの人は、「どう接したらよいか分からない」「提案が逆効果になるのではないか」と心配する方も多いです。しかし、最も心配なのは周囲の人々が同じように精神的に疲れ果ててしまうことです。まずは自分自身の精神的な安定を保ち、適度に楽しみや気晴らしを行うことが重要です。その上で、以下の2つのポイントに気をつけるようにしましょう。
1つ目は、ご本人の生活環境に関わることです。状態が悪いと家事や食事の準備が疎かになり、そのまま放置されると、回復したくても行動できなくなることがあります。無理のない範囲で支援をお願いします。
2つ目は、不調時の対応です。急に具合が悪くなった時には、家族や周囲の存在が心の支えとなります。気の利いた言葉かけは必要なく、不調になったときには素早い対応(救急車を呼ぶ、主治医に連絡する等)をしてあげてください。